ESSAY

 

й 初めての好きな人2

 

 やがて電話でも普通に話せる仲になり、ただの話だけじゃなくて、大学受験についてのアドバイスまでしてくれるようになった。気づくといつの間にか自分の兄ちゃんのような気がして、すごく親近感を抱いていた。電話は通話料がかかるから、俺からかける、といっていつも彼がかけてくれた。僕は毎日それを計算し、「もう○○○○円だよ、大丈夫なの?」なんてことを言って、彼はいつも一言「平気平気。」といって長話をしていた。その頃、運よく僕たち2人が使っている機種同士で15円という破格の通話料が登場した。しかしそれは週末祝日のみ。それからは週末祝日にまとめて話すようになった。長いときは2時間。携帯同士でそれだけ話しても5×120分=600円なわけで、それまで普段に話していたよりは大分安くなった。それもあり、自分からも電話をかけるようになった。

でもやっぱり問題なのが、安心して電話をかけられる環境じゃなかったということだ。2人は半分同性愛者なわけだから、それなりにノンケに聞かれたらヤバイような話題も出てくる。僕の部屋は弟の隣の部屋で、夕方だと両親がよく部屋に入ってくるし、夜だと静けさで弟の部屋まで電話している内容が聞こえてしまうのではないかと不安だった。結局、夜遅くに音楽をかけて電話をするのが主流になったが、たまに足音がしたり、誰かが部屋に入ってきそうなときはすぐに電話を切ったり、隠したりしながら電話をしていた。

それでもいつもおもしろかったのが、電話を切るときだった。

 

これは、取り引きだ。

 

いつも電話を切るときに「じゃぁね」といってどちらが先にきるかが勝負だった。もちろん、ずっと話していたいのと、先にきったら失礼だ、というのが双方にあって、いつもじゃぁねといっても切らないまま「先にそっちが切ってよ」「そっちこそ」「じゃあ同時に切ろう」「っせーの、……」「あれ、切ってないジャン!!」なんて会話を毎日繰り返してた。今思うと、その頃から僕は彼に思いを寄せていたのかも知れない、と思った。それはもちろん彼も僕のことが好きなのかな、と思った。でも自分はまだ同性を心の底から好きで、たまらなくなった、という思いはなかったので、どんなものか全然わからなかった。

やがて、僕たちは「付き合う」ということになった。少しずつお互いの気持ちを話し、会ったこともないんだけど、この人とならこれから先やっていける、そう確信して、僕は彼のその提案にOKをした。初めてだった。でも、何も実感なんてない。会ったこともないから、体の関係を持ったわけでもない。写メ交換はしていたものの、現実に見たことはなかったので実際のイメージはなかなかわきにくかった。 しかし、彼の性格と人柄の良さ、そして僕との愛称はばっちりだった。それまでは何人かの人と連絡もしあったりしていたが、彼と付き合うことになってそれ以外のほかの人との交信は自然とあまりしなくなった。

でも1つ、自分に引っかかることがあった。自分にはそれまで「男の人に彼氏がいる」というシチュエーションがなかったし、そんな発想もまったくもってなかった。だから彼氏というのには少し抵抗があり、勝手ながら「相方」と呼ぶようにした。「相方」のほうがしっくりくるし、より近い関係のような気がした。そのころ初めて買ったBadiの特集に「愛(アイ)のカタチ〜相方特集〜」というのがあって、本当に仲のよさそうな2人が幸せそうに載っていたのも僕がそう呼ぶようになった1つの理由だ。

 

 

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